瀬戸内海で育った幼少期
「は・か・た・の・しお♪」とシャウトする耳馴染みのいいフレーズ。誰もが聞いた事があるCMでお馴染みの「伯方の塩」が有名な伯方島。海運と造船が盛んで、人口8,000人程の島で馬越は産まれた。祖父・父共に造船所で働く家庭に生まれた馬越は自身も同じ様な仕事をするのであろうという思いで幼少期を過ごす。高校からは島を出て松山へ。バスで30分、船で30分、自転車で30分。通学トライアスロンといわんばかりの手段で3年間通った。

海外からの実習生、日本語上手は仕事上手
高校卒業後、松山の大学に進み、卒業後は30歳まで松山で働いた。その後、伯方島に戻り造船所で5年程勤めることっとなった。生産技術職としてだけではなく、製造現場でも働いていた馬越。そこにはフィリピンやベトナムといった東南アジアからの実習生も多く同僚として働いていた。
ある日、仕事終わりでコンビニに立ち寄ったら同僚のフィリピン人がいた。どうやらコピーが上手くとれなくて困っているようだ。馬越はカタコトの英語で手伝ってあげたのだが、店内には他にもお客さんや店員さんがいるにも関わらず誰も助けていない。
一緒に働いている仲間が私生活で困っている姿を目撃して、「言葉の壁」というものを痛感した。言葉の壁に関しては、仕事中にも感じる事があった。造船所には”クレーン下”という仕事がある。造船所のクレーンは凄く高く、その下で旗を振る専門の職種である。そこを任されていたのはベトナム人留学生。彼は日本語が得意で、馬越が仕事を依頼した際「ごめん!ちょっと待って。今、いっぱいいっぱい」と返事が来るほどだった。彼の様に日本語が通じる留学生は、他の社員からも多くの仕事を頼まれるようになり、仕事も多く覚えるし日本語も更に上達していった。この時、”言葉の壁を無くす”という事がいかに大切かを馬越は学んだ。コンビニで困っていたフィリピン人は日本語を理解していないため私生活すらうまくいかない。一方日本語が堪能なベトナム人は様々な仕事を任される事で多くを学ぶ事ができる。仕事を覚えて貰う事はもちろんだが、それ以上に日本語を学んで貰う事が重要であると、この時馬越は感じていた。

言葉の壁をブチ壊す!
サンテックには様々な国から技能実習生やインターンとして集まってくる。そんな彼らに馬越の提案で行っているのが 日本語教室だ。
外部から講師を招き、週に一回 2 時間程度授業をしている。しかも、就業時間内で授業を受けることができるのも魅力 の一つ。目的は 2 つ。日本語を理解し、話せるようになることで彼らが日本で暮らしやすくなること。仕事でも同僚と コミュニケーションを取りやすくなる事で、より多くの技術を学べること。
“言葉の壁”を取っ払う事が重要であると考える馬越の提案で、青木社長からもこの提案にはふたつ返事で OK。留学生 への日本語教室だけではなく、日本人向けの英語教室も開催されている。 多くの国からの技能実習生やインターン生が訪れるサンテックにおいて、言葉の壁を無くすという事は業務的な面でメ リットがある。日本で学ぶ事だけではなく、母国に帰ってからもサンテックとのやり取りをする上で非常に役に立つの である。いつかサンテックから巣立ち、母国で日本の技術で活躍する職人から「いっぱいいっぱいだよ」と言われる日 が来るのが今から待ち遠しい。

理想は自分がいなくても変わらないこと。
言葉の壁を乗り越える日本語教室以外にも馬越が積極的に取り組んでいるのが作業の効率化である。
サンテックはものづくりの会社。金属を曲げ、加工し製品を作る職人が印象的であるが、その一方で総務や製造管理部といった書類仕事をこなす部署もある。ひとつの製品を作るにしても部品の受発注や納品時の書類作成がある。更に海外からの実習生やインターン生を招き入れる際にも書類作成は必要。こういった業務は山のように存在し、そのため仕事が溜まると残業しなければならない事があるのは事実である。作業を効率化する事で従業員の残業を減らす事が大切な事だと馬越は考えている。
残業時間が減るということは、従業員がそれぞれの時間を過ごす事ができるという事になる。早く帰って本を読んでもいいし、映画を観てもいい。様々なインプットを行う事で人は成長する事ができる。それはつまり、会社にとっても良い事であると馬越は言う。
馬越が影響を受けた言葉の中に、ウルグアイの元大統領であるホセモヒカの言葉にある「本当のリーダーとは、多くの事を成し遂げる者ではなく、自分を遥かに超えるような人材を育てる者」この言葉を馬越は仕事をする上での理想としている。自分がいなくても、その仕事が自分がやるのと同じ速度・精度で回るようにする事。誰が見ても同じ理解・同じ読みやすさで見る事ができる資料、情報の仕組みを作ることを馬越は目指している。
取材を終えて
「楽したいだけなんですけどね」馬越は笑顔で我々にこう言った。
笑顔の理由は家で待つ愛する家族の存在だ。先述の通り、会社の為に仕事の効率化を考えるのには嘘は無いが、個人的な理由は愛する家族と一緒に過ごす時間を大切にしたい。そして、自分だけではなく一緒に働く仲間にもそんな時間を過ごして欲しい。そういった願いが込められている。家族を愛し、家族と過ごす為に働く素敵なお父さん。そんな馬越さんの今後の活躍から目が離せそうにもない。